https://www.bbc.com/news/world-asia-india-64779136

2023年2月26日、Delhi 特別行政区政府の副首相Manish Sisodia氏が逮捕されました。なぜなのか背景を追ってみました。

【前提】  

そもそもDelhiを含めインドの地方政治の構造は二重構造になっていて、これが問題の温床になっている。二重構造とは、行政は選挙で選ばれた地方政府の首相(Chief MInister)が執り行い、一方で中央政府の利害を代表すべく大統領に任命された副知事(LG, Leutenant Governor)が存在する。

デリーにおいて(デリーだけでなくインド全般)酒に関する事業は許認可制で、アルコール飲料の販売、流通、消費を統制する規則や規制をExcise Policyと言う。デリーの場合、この政策はデリー政府によって策定され、定期的に更新される。デリーにおいては(デリーだけでなくインド全般)伝統的に特に右派保守系の政治家の間ではアルコールによる公衆衛生や安全への影響について常々懸念が示されており、アルコール消費量の増加や関連問題の発生に慎重姿勢をとり、政府による強い統制に積極的である。

デリーは2020年2月16日から、選挙で選ばれた Aam Aadmi Party (AAP党)がデリー政府の政権運営を担当し同党の党首であるArvind Kejriwalが首相を務めている。一方で当時は、Modi政権のアドバイザーを務めるなどBJPに近かったAnil Baijalがデリー政府の大21代LGを務めていた(31 December 2016 – 18 May 2022)。

【AAPによるアルコールビジネスの自由化】

2021年5月、デリー政府のAAP(Aam Aadmi Party)政権は、アルコールビジネスについて、カルテルや闇取引に終止符を打ち、薄汚れた店舗の一掃、品揃え不足への対応、価格競争を導入し、アルコール事業の活性化を目的とした新しい許認可制度を発表した。この新制度により、政府の歳入を増やし、雇用機会を増やし、酒類業界の透明性を促進することができると表明した。新政策の主な特徴は、

  • 酒類販売の民営化
    政府運営の店舗を2021年10月までに廃止し、指定許可区域に民間事業者が市内に酒類販売店を設置する(新規出店入札とライセンス料の支払い)ことを許可した。その際には過度な競争が起きないよう区域を区画に分け、事業所の集中を回避した。
  • 酒類の機会増幅
    デリーの禁酒日を21日から3日に短縮し、ホテル、パブ、クラブ、レストランのバーを午前3時まで営業できるようにした。酒類のオンライン注文と宅配が可能になった。

選挙で選ばれた首相のArvind Kejriwalは、上記の新しい酒事業の運営方針を定め、2021年11月17日の施行を予定した。2021年11月に新制度が発足すると、高額な初期費用、厳しい競争と値引きによる収益減により、ますます多くのライセンシーが事業から撤退し、実際の出店は低調で、指定区域32区画のうち少なくとも9区画が空白となった。民間の小売酒販店は849店舗になるはずだったが店舗数は639(22年5月)、464(22年7月)と減少している。

AAPは、事業参入者の減少について、当時LGだったAnil Baijalの背信を指摘した。Anil Baijalは方針の実施の2日前の11月15日に非認可地域での酒販売について、自由に事業できるとしていた方針に独断で制約を加え、デリー開発局(DDA)およびデリー市庁(MCD)の許可(NOC)(no objection certificates (NOC) from Delhi Development Authority  (DDA) – Municipal Corporation of Delhi (MCD) )を取得しなければならないとした。本来設置されるはずだった場所に数百の販売所が開設されなかったことが問題の主因であるとし、この管理の及ばない指定区域外での事業認可で政府は数百億ルピーに相当する歳入を失ったという(AAP側の試算)。

しかしAnil Baijalの後任となったデリーLGのV K Saxenaは、2022年7月、Manish SisodiaとAAP職員が金銭の代わりに民間企業を優遇する一連の不正にふけったとし、中央捜査局 Central Bureau of Investigation (CBI) へ調査を推奨した。LGは、デリー政府が酒類販売許可業者に手付金を違法に返金し(AAPによればNOCを取得できなかった業者への返金)、入札したライセンス料を免除し(AAPによればCovid-19での事業閉鎖に伴う返金)、入札規範に違反して区内の酒屋を増やし、LGの承認なしに決定を下したと述べている。2022年8月にCBIはAAP側の新政策の責任者Manish Sisodia副首相の家宅捜索などを実施し、Manish Sisodia副首相を含む15人について「不正」を告発し、11人の停職処分等を発表した。

結局デリーでは9月1日から政府運営の店舗のみが酒類を販売するにとどまり、市内で営業している店はわずか数軒にとどまっている。在庫も乏しく、高級ブランドはほとんど手に入らないため、人々は酒を調達するために近隣の都市へ行かざるを得ない状況となっている。

【2023年2月】

捜査を続けていたCBIは2023年2月26日、Manish Sisodiaの逮捕に至った。

【参考】

https://www.outlookindia.com/national/manish-sisodia-blames-ex-delhi-lieutenant-governor-anil-baijal-of-changing-stance-on-opening-liquor-shops-in-unauthorised-areas-news-214675

https://www.hindustantimes.com/cities/delhi-news/what-is-delhi-excise-policy-and-why-is-it-a-flashpoint-of-bjp-aap-tussle-101660892275838.html

https://www.hindustantimes.com/cities/delhi-news/delhis-liquor-sector-reform-and-where-it-went-wrong-101660934348367.html