インドの国内メディアの経済に関する論調は、やれ高い成長率だ、やれ何年後には世界第何位の経済大国だ、とバラ色に包まれている昨今ですが、パキスタンの独立系シンクタンクならではの、インド国内からは出てこない鋭い洞察は、インド現地で私が見る現実と合致していて説得力を持っているように思われます。

インド経済に関する洞察 
– OpEd(opposite the editorial page, 社説とは別に個人的見解)

2022年11月17日  By Maryam Mastoor

写真はムンバイのインド門

インドの経済成長は、昨年の年率8.2%から2022年には5.7%、2023年には4.3%に低下すると予測されています。この予測は、国連貿易開発会議(UNCTD)の最近の報告書によるもので、インドの経済成長率低下の主な理由として、資金調達コストの上昇と公共支出の弱体化を挙げています。また、同報告書では、政府が導入した「生産連動型インセンティブ制度(PLIS)」が企業の投資を促進する一方で、エネルギー需要の増大を招き、最終的に化石資源の輸入代金の上昇を招いていると指摘している。  輸入代金の高騰は経常収支の赤字を招いている。 

赤字は、外貨準備からの支出でまかなっている。そのため、インドの外貨準備は使い果たされている。最近、インド準備銀行(RBI)は、前年度の6,420億ドルの外貨準備から約1,180億ドルを取り崩している。また、インドルピーは対米ドルで83.29と過去最安値を記録した。

今年、経常収支の赤字は過去10年間で最低となった。また特記事項として年初に、米国連邦準備制度は「インドのような新興国からの資金流出の誘発を狙った数十年に一度の引き締めサイクル」を開始した。米連邦準備制度が金利を引き上げるとインド経済に直接的な圧力がかかり、投資家は新興国や不安定な経済から資産を移すのだ、例えばインド。したがって、ロイターによれば、経常赤字の問題は、海外直接投資の減少とも重なる。

UNCTDにより成長率低下の理由として別に挙げているのが政府支出の鈍化である。不可解なことを記すと、前年の経済成長にもかかわらず、インド政府は支出を抑制している。経済学者のManasi Swamay氏はTimes of India紙に、インド政府の支出への後向きさは当惑もので、2021年第2四半期の最終消費支出は前年同期比4.3%減となった。現在のところ、公共支出の弱さを主な理由とするGDPの成長低下に関するUNCTD報告書の発表後、インド政府は鉄道と道路分野への支出を誓った。

また皮肉なことを書くとインド経済は昨年成長したにもかかわらず、波及効果が見られない。大衆の窮状は変わっていない。2021年の飢餓指数ではインドは116カ国中101位でした。インドでは貧困が蔓延しているのです。 

興味深いことを記すと、予測は現実とは異なることだ。IMFに向けてSurjit S Bhalla、Karan Bhasin、Arvind Virmaniが書いたワーキングペーパーによると、米国の有名シンクタンク、ブルッキングスにも掲載されているが、インドの貧困は減少しているとされている。しかし、政治アナリストの Ajit Ranade は Times of India に掲載された記事の中で、いくつかの妥当な疑問を投げかけ、この調査結果の妥当性に疑問を呈している。彼は、もし貧困が縮小しているのなら、なぜ政府は無料の食料計画や無料のガスボンベ計画を発表し、なぜ数少ない政府の仕事に数百万人もの有資格者が応募したのか、と問うている。

インドの成長は依然とし て理解が難しい。貧乏人はますます貧乏になり、金持ちはますます金持ちになる。インドは2番目に人口の多い国だが、税金を払っている人はわずか5%だ。インドではいまだに課税ベースを増せないでいる。皮肉なことを記すと、世界の富豪10傑の中に、Mr. Mukesh Ambani(Reliance Industries Ltd)と Mr. Gautam Adani (Adani Group)の2人のインド人が入っている。

インドにはいくつかの構造的な問題がありますが、ナレンドラ・モディ首相は能天気に海外投資を惹きつけ構造的な問題には取り組んでいない。国際的な投資家は当初「予測」という優勢な意見に魅了されたが、今ではその欠点が目につくようになった。インド経済は不安定な基盤の上にある。国際的な金融力学に大きく依存している。インド経済の土着の力は、模索されず、改善されず、利用さえされていない。

汚職、関税法の混乱、官僚の策略、脆弱なインフラなどは、海外投資家がインドに投資する際の主なハードルとなっています。これらの問題は、インドが国際的な投資家にとって「機会」になることを阻み、代わりに問題の迷路に変えてしまうのです。外国人投資家はインドから逃げ出しつつあります。2021年10月、インドから230億ドルが引き出された。

さらに、インドでは中小企業も成長が止まっている。インドステイト銀行(SBI)のレポートによると、2017-18年のインフォーマルセクターのGDPへの貢献度は52%だったが、現在は20%を切るまでに減少している。しかし、インド人協会コンソーシアム(CIA)の主催者であるKE Raghunathanによると、零細・中小企業まわりのデータや理解は欠落しているという。

インド政府は、すべてのカードを曖昧なまま使っている。データの欠落は混乱を招き、投資家は予測だけで判断してしまう。世の中では‘incredible India’を喧伝するために多くの努力が注がれている。しかし現実は厳しい。2011年以降、国勢調査は行われていない。2021年に実施される予定でしたが、いまだに着手されていません。 大雑把な推計ながら貧困ラインを下回る生活をしている人々は人口の60%にのぼるが、国勢調査が行われていないため、誰も正確な数値を知らない。  CNNのために作られたリポートで、 Moni Basuはインドの人口の60%近くは、世界銀行の貧困ラインの中央値である1日3ドル10セントで生活していると述べている。

人々を貧困の罠から脱却させるための構造改革なしには、インド経済は低迷を続けるだろう。予測は投資家を惹きつけても、持続可能なシステムという土着的な強さを持たない薄い構造基盤は、やがて外国からの投資を遠ざけるだろう。インドの進歩の鍵は、構造改革の導入による貧困層の救済にあり、それなくしては、「インド経済の好況」は煙幕に過ぎない。

Maryam MastoorInstitute of Regional Studies(パキスタンの独立調査機関、http://www.irs.org.pk/)のリサーチアナリスト(インドプログラム)です。